
「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」が発刊されています。

何が変わっているの?

2014年版から6年ぶりの改定でした。新規発売された製剤や治療の考え方にも変化があったので、改訂のポイントを解説しますね。

分かりやすい解説をお願いね!
2020年7月に日本緩和医療学会から「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」が発刊されました。
2014年版から6年ぶりの改訂です。
6年の間に多くの製剤が新規発売され、治療の考え方にも変化がありました。
本記事では、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」のポイントを解説します。
ぜひ参考にしてくださいね。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の使い方
最初に、ガイドラインは一つの指標であり絶対ではないということをお伝えしておきます。
多くの患者に該当しますが、特殊な事例には該当しません。
ガイドラインを参考にしながら、一人ひとりの患者に丁寧に対応することが大切です。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版ガイドラインは、がん性疼痛に対する薬物療法が中心です。
骨転移痛や腹部痛など、個別の痛みに関しては2014年版を参照しましょう。
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の改定ポイント
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の改定ポイントは次の通りです。
具体的な薬剤に焦点をあてて、解説していきますね。
強オピオイドの改定ポイント
まずは強オピオイドについてです。
オピオイド未使用患者にフェンタニル貼付製剤は弱い推奨
がん性疼痛に対して強オピオイドを使用することは「強い推奨」です。
ただし、フェンタニルは脂溶性が高く、中枢神経に移行しやすい薬剤であることが知られています。
- オピオイドの初回使用時に用いるのは十分な検討が必要なので、フェンタニル貼付製剤は「弱い推奨」

フェンタニル貼付製剤は低用量では問題ない場合もありますが、いずれにしても十分な検討が必要ですね。
腎機能低下患者にモルヒネ投与は推奨されない
腎機能低下患者に対してモルヒネを投与することはあまり推奨されていません。
モルヒネは、肝臓で主にグルクロン酸抱合され、M3GとM6Gに変換されます。
M6Gは、鎮痛および鎮静作用を示すことが知られている代謝産物。
M3GおよびM6Gはほとんど腎から排泄されるため、腎機能障害患者にモルヒネを使用するとM3GおよびM6Gが蓄積し、鎮静などの副作用への対処が困難になります。
- 腎機能障害患者にはモルヒネを使用しないほうが望ましい
使用する際は減量あるいは投与間隔を延長しましょう。

特に、高度な腎機能障害を有する患者では、モルヒネを使用すべきではないと言えますね。
腎機能低下患者にコデイン投与は推奨されない
コデインは10%程度がモルヒネに変換されます。
さらにM3GおよびM6Gに変換されるため、モルヒネと同様の対応が必要です。
- 腎機能障害患者にはコデインを使用しないほうが望ましい
使用する際は減量あるいは投与間隔を延長しましょう。
肝機能低下患者にオピオイドの投与は推奨されない
肝機能低下患者には、オピオイド自体が投与を推奨されない場合もあります。
モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、コデインはほとんど肝臓で代謝されるため、肝障害時には代謝能が減少します。
- 肝機能低下患者に肝代謝のオピオイド投与は推奨されない
しかし、がん性疼痛では投与せざるを得ない場合もあるので、代謝などを確認しながら慎重に投与していきます。
したがって、肝機能障害時には投与量の減量あるいは投与間隔を延長して、薬物の蓄積を防止に努めましょう。

肝実質を用いるCYPを経由した代謝よりもグルクロン酸抱合による代謝を選択したほうが肝機能への負担は小さくなります。
グルクロン酸抱合の代謝経路であるオピオイドには、モルヒネ、ヒドロモルフォン、タペンタドールがあります。
加えて、腎機能への負担や服用回数などを考慮して使用しましょう。
弱オピオイドの改定ポイント
次に、弱オピオイドについてです。
強オピオイドが使用できない場合に弱オピオイドを使用する
- 弱オピオイド製剤のコデイン、トラマドール、ブプレノルフィンは、がん性疼痛患者には「弱い推奨」
強オピオイドが使用できない場合に弱オピオイドの投与を検討します。
弱オピオイドは強オピオイドと効果も副作用も大きな差はありません。

弱オピオイドを第一選択とすると、痛みが強くなってくると対応できない場合もありますので、最初から強オピオイドをしようした方が疼痛コントロールが容易と考えられます。
ブプレノルフィン(レペタン)の特徴
ブプレノルフィンは古くからある薬剤です。
慢性疼痛や術後痛に対してはよく使われるものの、がん性疼痛では今回のガイドラインで初めて収載されました。
- 天井効果があると報告されているが、人間では認められていない
- 内服薬がなく、坐剤、注射薬、貼付薬のみ
この薬剤は投与量を増やしても鎮痛効果が頭打ちになる天井効果があると報告されていますが、人間では認められていないため、海外ではよく使用されています。
しかし、日本ではあまり使用されておらず、使用する際には注意深い観察が求められます。
貼付薬は1週間貼り続けても疼痛管理ができることは大きなメリットになる患者もいるでしょう。
しかし、がん性疼痛に対する使用は保険適応外になる場合もありますので注意が必要です。
強オピオイドを使用しても鎮痛効果を得られない場合はメサドンが推奨された
強オピオイドで痛みがとれない場合は、メサドン製剤の出番です。
なお、使用の際には用法容量、モニタリング等の注意深い観察が必要となります。
- 開始、増量から1週間は増量ができない
- 処方するにはeラーニングが必要
- QT延長に注意、定期的に心電図を確認する
- 強オピオイドで除痛困難な場合は投与を検討する
- 他のオピオイドとの換算比が煩雑なため専門家の意見が必要
メサドン製剤もブプレノルフィンと同様に、今回のガイドラインで初めて収載されました。
オピオイドに加えてNMDA受容体拮抗作用をもちます。
- NMDA受容体は神経障害性疼痛や中枢性感作の発生に作用する
- 脳内で興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が放出され、NMDA受容体を活性化し、痛みが生じる
NMDA受容体拮抗薬はオピオイドが効きにくくなるオピオイド鎮痛耐性に拮抗し、オピオイドの鎮痛効果を増強すると言われています。
また、痛み刺激が頻回に持続すると痛みが強くなるというWind Up現象を抑えると考えられています。

強オピオイドや鎮痛補助薬を使用しても取れない痛みの場合はメサドン製剤の使用を検討します。ただし、いくつか注意点があることを知っておきましょう。
メサドン製剤は効果が半減するまでの期間が長いため、効果が現れるのも遅く副作用もすぐには現れません。
したがって、投与を始めて1週間は増減量ができないという難点があります。
副作用のひとつにQT延長がありますので、心電図の検査は一定期間で行う必要も。
さらに換算比が非常に曖昧で換算しにくく、メサドンから他のオピオイド製剤に変えにくいという欠点もあります。
デメリットが多いように見えますが、一方で安価で効果も認められる場合も多く、非常に重宝する薬剤です。
突発痛に使用する薬剤
上記の薬剤で持続痛はある程度とれる場合が多いですが、オピオイドは突発痛に対しても対応できます。
突発痛に対しては効果が速く現れる速放製剤を選択します。

モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン、フェンタニルとさまざまな製剤がありますが、大事なことは痛いときにすぐ使用できるように準備しておくことです。
速放製剤の中でフェンタニルだけは「弱い推奨」
- 速放製剤はガイドラインでは「強い推奨」となっているが、フェンタニルだけは「弱い推奨」
これは同剤が舌下もしくはバッカル製剤の粘膜吸収型であるためです。
また、30分以内の効果は他の製剤よりも高いものの、30分以降は変化がない点、高価な点も弱い推奨の要因です。
フェンタニルの特徴は半減期が長く、1日の投与回数に制限があります。
他の製剤は1~2時間程度の間隔で再使用できますが、フェンタニル製剤はその限りではありません。

持続的な痛みが一定程度とれ、突発痛に専念して管理する場合に投与を検討しましょう。
鎮痛補助薬の特徴
鎮痛補助薬は次のようなものがあります。
抗うつ薬のデュロキセチン、アミトリプチリン、イミプラミン、フルボキサミン、抗けいれん薬のプレガバリン、ガバペンチンなどはオピオイドとの併用でがんによる神経障害性疼痛および骨転移痛に効果を認めています。
しかし、抗不整脈薬のリドカインは、オピオイドとの併用によるがん性の神経障害性疼痛および骨転移痛への効果は一致しませんので、リドカインの投与は慎重に検討したほうがいいでしょう。
ケタミンも同様に効果が一定ではないため「弱い推奨」です。
ステロイドはがんによる疼痛への投与は限定されており、脊椎圧迫症候群を含む神経圧迫による痛み、放射線治療による一過性増悪への対応、脳転位やがん性髄膜炎による頭蓋内圧亢進症状に伴う頭痛に対して投与を推奨しています。

すべての神経障害性疼痛がプレガバリンやステロイドで対応できるわけではなく、症例ごとに使い分けが求められますが、その指針はまだ明確なものではありません。
まとめ
最初にも述べたように、ガイドラインは一つの指標であり絶対ではありません。
多くの患者に該当しますが、特殊な事例には該当しないのです。
ガイドラインを参考にしながら、一人ひとりの患者に丁寧に対応することが必要でしょう。
患者本人、医療スタッフと相談しながら、有害事象などを考え、状況に応じた使い分けが求められています。
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